ペーパーレス化で増えたPDF目視チェックを自動化する【中小企業DX事例・検証フェーズ】
digisapo1. 改善策を小さく試す理由
前回の記事（課題定義編）では、経理担当者が加盟店から提出されるPDF資料を一つずつ開いて内容を照合する作業を紹介しました。
紙が減っても「PDF目視」という新たな手間が生まれ、月600件・1日分の工数がかかっていたのです。
こうした業務を一気にシステム化しようとすると、初期コストも失敗リスクも大きくなります。
そこで今回のフェーズでは、**「まずは小さく試す」＝PoC（概念実証）**を行いました。
PoCとは、アイデアや構想を小規模に検証し、**「本当に効果があるか」**を確かめる取り組みです。
大掛かりなシステム開発に進む前に、
- 技術的に実現できるか
- 現場が使いこなせるか
- 想定通りの成果が出るか
を見極めることができます。
2. PoCの実施内容
今回の検証対象は、「加盟事業者から提出されるPDFファイルと、DBに登録された数値データの突合業務」です。
前提条件：
- 加盟事業者から、複数のPDFファイルと売上関連の数値が毎月送られてくる
- ファイルはGoogleドライブ上に保存され、ファイルURLと数値は既存DBに登録済み
PoCのスコープ：
- DBから該当するファイルURLと数値のセットを取得
- 取得したPDFをOCR（光学文字認識）で読み取り、抽出した値とDBの数値を突合
OCRには「Google Cloud Vision API」を採用。無料枠でも600件規模を処理でき、環境親和性・技術実現性が高いと判断しました。
この検証により、**“目視チェックがどこまで自動化できるか”**を定量的に確認しました。
3. アジャイル的な進め方
PoCでは、1回の大規模検証ではなく、小さなサイクルを何度も回しました。
最初は10件のPDFから始め、フォーマットの違い・OCRの誤読傾向を確認しながら改善していきます。
特に重視したのは、業務担当者と開発担当者が実データを見ながら議論すること。
たとえば、
- 「この自治体の書式は金額欄が別ページにある」
- 「ファイル名規則が統一されていない」
など、机上では見えない現場の事情を共有し、スクリプト修正に即反映しました。
このように成果物を介して会話するアジャイルな進め方により、要件の解像度が上がり、
「理論上できる」ではなく「現場で動く」自動化の形が明確になりました。
4. 検証結果と学び
検証の結果、全体の約8割のPDFで完全自動照合が可能になりました。
残る2割はOCR精度や書式差異が原因で人手確認が必要でしたが、
業務全体としては目視作業を80％削減できる見通しが立ちました。
また、PoCを通じて得られた学びは次の通りです。
- OCRの前処理（不要文字除去・改行整形）で精度が大幅に改善
- 書式差異をDB側で識別するルールを整備する必要あり
- 現場が確認したい「突合結果レポート」の形式を早期に決めることが重要
経理担当者からは「ここまで自動化できるとは思わなかった」「次は照合結果の確認画面を作りたい」という前向きな声が上がりました。
5. 採用判断と次のステップ
PoCの結果、自動照合率8割を達成したことで、業務として十分な効果が見込めると判断しました。
次のフェーズでは、
- 自動照合結果を経理担当者がUI上で確認できる仕組みの構築
- OCRが読み取れなかった例外パターンを自動検出する仕組みの導入
を進めています。
PoCの段階で「どこまで自動化できるか」「どこから人が介在すべきか」を明確にできたことで、
無理のないDXロードマップを描けるようになりました。
6. 今日からできる一歩
PoCやアジャイル開発という言葉を聞くと、「うちはそんな余裕がない」と感じる方も多いでしょう。
ですが、始め方はシンプルです。
- まずは1業務・10件程度のデータを対象にしてみる
- 無料ツール（例：Google Vision API）を活用する
- 開発担当者と現場担当者が一緒に検証結果をレビューする
この3つだけでも、PoCの効果は十分に感じられます。
完璧な要件書よりも、「試して学ぶ」姿勢こそが中小企業DXの第一歩です。
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